阪神タイガースのジェリー・サンズ外野手が好調だ。打率は3割をキープ。5番
打者としての役割をきっちりとこなしている。ここまで他の2人のクリンナップ
の成績がパッとしない中で、孤軍奮闘の感がある。昨季は2軍からのスタートで
シーズンが始まってしばらくしてからの登場となったが、今季は開幕から出場。
相手投手の内角攻めなどに苦しんで尻すぼみの成績に終わった昨季に比べると今
季は最後まで十分に期待が持てる内容となっている。
筆者はおそらく今年の阪神タイガースの中での三冠王はこのサンズとみている。
ホームランでは大山や新人の佐藤などのライバルも多いが、全体的な安定感で言
えばやはりこのサンズであろう。いや、セ・リーグ全体での三冠王も夢ではない
と思えるほどの昨今の活躍ぶりである。
この活躍は何も打つ方だけではない。たとえば4月1日にマツダスタジアムで行
われた広島との一戦にも象徴的なシーンがあった。
4回表無死一塁。一塁走者は四球で出塁したサンズ。打者佐藤がマウンド付近に
フライを打ち上げ、三塁手の広島堂林が捕球してアウトを取った。そして、堂林
がマウンド上で投手の中村投手にボールを渡し、中村はマウンドからホーム方向
を見ながらボールをこねる、とここまでは見慣れたシーン。しかし、ここからが
違った。次の瞬間、一塁走者サンズが無人の二塁へ走りだす。異変に気づいた中
村がセカンドへ投げようとするも時すでに遅し。サンズが二塁を陥れた。まさに
サンズの「神走塁」となったわけだ。
ちなみに記録は野手選択、つまり「野選(フィルダースチョイス)」となった。
単なる一走塁ではない。これがどれほどの相乗効果をチームに与えることとなっ
たか。「助っ人」とは投げたり打ったりするだけではない。まさにそれを体現し
て見せた格好となったプレーであった。
今後、どのようなプレーで楽しませてくれるのか。今年のサンズ、そして阪神タ
イガースがとても楽しみとなった。
ところで「野選」とは?
そもそも野選とは。
少し長いが、公認野球規則の定義28によると、「フェアゴロを扱った野手が一
塁で打者走者をアウトにする代わりに、先行走者をアウトにしようと他の塁へ送
球する行為をいう。また、(a)安打した打者が、先行走者をアウトにしようと
する野手の他の塁への送球を利して、1個またはそれ以上の塁を余分に奪った場
合や、(b)ある走者が、盗塁や失策によらないで、他の走者をアウトにしよう
とする野手の他の塁への送球を利して進塁した場合や、(c)盗塁を企てた走者
が守備側チームが無関心のためになんら守備行為を示さない間に進塁した場合な
どにも、これらの打者走者または走者の進塁を記録上の用語として野手選択によ
る進塁という」
大変難しいが、隙を突いたプレーというものは記録上、野選しかない。 今回はフ
ェアゾーン内の飛球だったが、これが仮にファウルゾーンであっても野選にな
る。そして、ボールが二塁に渡ってサンズがタッチアウトになっていれば走塁死
という記録になる。
どちらにしても、今回の走塁はサンズの「神走塁」。応援する側にとってみれ
ば、こんなに痛快なことはない。